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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)8056号 判決

原告

ウオルト ディズニープロダクションズ

右訴訟代理人

松尾和子

小林俊夫

辻居幸一

被告

佐藤義博

主文

一  被告は、その営業について、「ポルノランドディズニー」、「ディズニー」、「ポルノランドティスニー」、及び「ティスニー」の表示を使用してはならない。

二  被告は、その肩書地の店舗に附着又は掲示されている「ポルノランドティスニー」又は「ティスニー」を表示した貼紙、看板、たれ幕及びその店舗の周辺に置かれた同表示の看板を撤去しなければならない。

三  被告は、その営業について、ミッキーマウス、ミニーマウス、ドナルドダック及びグーフィの図柄を使用してはならない。

四  被告は、その肩書地の店舗の内外に附着している前掲の図柄を撤去しなければならない。

五  被告は、原告に対し、金七〇〇万円及びこれに対する昭和五八年八月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

六  訴訟費用は被告の負担とする。

七  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

一原告訴訟代理人は、主文一ないし六と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

「1原告は、世界的に著名なキヤラクターを生んだ動画及び劇映画、記録映画、テレビ画の制作・配給並びにこれら映画の著作権及びキャラクターの商品化事業、更には「ディズニーランド」として知られる大遊園地の経営を行うアメリカ合衆国カリフォルニア州の法人である。

2(一) 原告は、その名称ウオルトディズニープロダクションズが示すとおり、ウオルトディズニー(一九〇一年生れ、一九六六年没)により支えられた会社であるが、ミッキーマウス(一九二八年)、白雪姫(一九三七年)、バンビ(一九四二年)、ピーターパン(一九五三年)、わんわん物語(一九五五年)、眠れる森の美女(一九五九年)、一〇一匹わんちやん大行進(一九六一年)、くまのプーさん(一九六六年)などわが国にも極めてよく知られている各種動画芸術を完成し、劇映画においても、メリーポピンズ(一九六四年)、砂漠は生きている(一九五三年)、滅びゆく大草原(一九五四年)などの世界的に著名な作品を完成した。これら種々の映画の著名性に伴いウオルトディズニーは、「ウオルトディズニー」の姓名だけでなく、単に「ディズニー」と略称されて、国内外に親しまれていることは周知の事実である。

(二) 右に述べた様々な映画に登場するキャラクターは、ディズニーキャラクターと一般に呼ばれているが、原告は、その著名性を背景に、商品化事業を創始し、世界各国の関係業者に右キャラクターの使用を許諾し、管理してきた。わが国においても、現在、玩具、日用品、衣料品、文房具、食品、育児用品、スポーツ用品、寝具、乗物、時計、趣味雑貨等の商品につき右キャラクターの使用許諾を受けている会社の数は七〇社をこえ、キャラクターの数は一〇〇個に及んでいる。

(三) 原告は、昭和三〇年七月、アメリカ合衆国マナハイム市に、「ディズニーランド」を建設し、次いで、昭和四六年には、フロリダ州に第二のディズニーランドというべき「ウオルトディズニーワールド」を、更に、昭和五八年四月一五日一般に公開されるに至つた「東京ディズニーランド」を千葉県浦安町に建設した(以下総称して、「ディズニーランド」という)。

「ディズニーランド」は、「夢と冒険と魔法の世界」であると一般にいわれているが、ディズニーは、この世界を子供のみでなく、大人にも楽しまれるものとして計画し、「ディズニーランド」を従来の遊園地の概念から大きく離れた家族、夫婦、親子などを単位とした全世代の人々がともに笑い、楽しみ、遊ぶことのできる場として提供した。

(四) 以上の事実に鑑みれば、「ディズニー」の名称は、原告の営業表示として、被告の営業開始の遥か以前に、わが国において広く認識されており、また、原告の「ディズニー」と密接不可分の関係にあるミッキーマウス、ミニーマウス、ドナルドダック、グーフィ等を代表とするディズニーキャラクターの図柄も、原告を指標する営業表示として、被告の営業開始以前よりわが国において広く認識されている。

3被告は、肩書地所在の新宿の目抜き通りに面する建物において、「ポルノランドディズニー」又は「ディズニー」(特殊書体及び普通書体を含む)の標章のもとに昭和五八年一月末ごろいわゆるセックスショップの営業を始め、右建物の地下一階を性的な題材を扱つたポルノビデオテープの販売、一階を性的な内容をもつた「大人のおもちや」及びビニール本の販売、二階ないし四階を半裸の女性によるマッサージのサービスを行うファッションマッサージルームにあてている。その店外及び店内には、ミッキーマウス、ミニーマウス、ドナルドダック、グーフィ等の図柄が装飾として附着され、また店員は「MICKEY MOUSE」の文字、ミッキーマウスの模様及びアメリカ合衆国の国旗を表わしたエプロンを掛け、また店内には「ディズニーポルノビデオの試写室」と名づけられた部屋があり、店で売るポルノビデオを「ディズニーポルノビデオ」と呼んでいて、その試写を行つている。

被告は、原告が被告を債務者として申請した東京地方裁判所昭和五八年(ヨ)第二五二一号仮処分申請事件において、同裁判所が同年四月一日にした仮処分決定によつて、「ポルノランドディズニー」及び「ディズニー」の表示の使用の差止及び同表示の抹消等を命ぜられたにもかかわらず、これに遵わず、右決定に基づく執行命令が発せられるに及んで同年五月ころ「ポルノランドディズニー」及び「ディズニー」の各表示をそれぞれ「ポルノランドティスニー」及び「ティスニー」と変更し、同一の営業を継続して今日に至つている。

4右「ポルノランドディズニー」及び「ディズニー」の名称が原告のディズニーの名称と類似することは明らかであり、「ポルノランドティスニー」及び「ティスニー」の名称は、従来の名称中「デ」及び「ズ」から濁点をとつたにすぎず、全体として原告の右名称と類似する。

被告の使用するミッキーマウス、ミニーマウス、ドナルドダック、並びにグーフィ等の図柄は、被告のイメージを指標するものとして、営業全般につき使用されているから、営業表示として、原告の営業表示であるディズニーキャラクターの図柄と同一ないし類似している。

5被告の営業はセックスショップの経営であり、原告が直接営業の対象とするものではない。しかし、被告は、前述のように原告の「ディズニー」の名称やディズニーキャラクターと同一又は類似の図柄を使用し、原告の「ディズニーランド」が、「夢と冒険と魔法の世界」といわれるのに対し、同じように、セックスに関する「大人の夢」を実現するランドとして一般に宣伝する等被告の営業を原告の営業と関係づける工夫を積極的に行つている。したがつて、一般世人に、原告が、被告の営業に何らかの形で関与しているかのように誤認混同されるおそれがあり、原告の営業イメージは、被告の営業と混同されることにより、営業上回復できない損害を被る。

6被告の右行為は、原告の家族単位で楽しめる健全な娯楽の世界を提供することを基本理念とする原告の営業を故意に中傷しかつ悔蔑するものであつて、原告が長年にわたつて築き上げてきた名声、信用を破壊するものである。被告の右行為によつて原告が受けた名声、信用の毀損による損害は、金銭に評価すると三〇〇万円が相当である。

原告は、被告の右行為によつて仮処分申請、代替執行の申立て、また本訴の提起を余儀なくされ、弁護士費用として合計四〇〇万円を支払つており、同額の損害を被つている。」

二被告は、第一回口頭弁論期日において、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めたが、請求原因事実については認否せず、適式に告知された第二回口頭弁論期日に出頭せず、同事実を明らかに争わないので、民事訴訟法第一四〇条第一項の規定により請求原因事実は全て自白したものと看做される。

三右事実によれば、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条の規定を、仮執行の宣言について同法一九六条の規定をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(牧野利秋 野崎悦宏 一宮和男)

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